退職金にかかる税金を解説!所得税と住民税の計算例

退職金制度を設ける会社は減ってきたと言われるものの、福利厚生の一環として制度を維持している企業もまだ多く存在します。退職金の有効な使い方を検討するためには、まずは退職金から税金がいくら引かれて、手元にはいくら残るのかを確認することが重要です。
この記事では、退職金にかかる税金の基礎知識や実際の税額計算例をご紹介します。会社に退職金制度があることは知っていても、意外と知らない税金や控除のルールについて、ぜひ理解を深めておきましょう。
目次
退職金にも税金がかかるって本当?
給料やボーナスと同様に退職金にも税金がかかります。ただし、退職金にかかる税金はそのほかの収入と違い、所得の考え方や控除のルールがやや特殊と言えます。まずは、退職金の課税ルールについて解説します。
退職金には所得税と住民税がかかる
退職金は税法上、給料やボーナスなどと同じく所得として扱われ、所得税と住民税が課税されます。退職金の受け取り方は一時金と年金の2種類があり、その受け取り方によって所得の扱いや課税金額の計算方法が異なります。所得の分類は、一時金なら退職所得に、年金なら雑所得になります。
一時金形式 | 年金形式 | |
---|---|---|
受取方法 | 一括で受け取る | 一定の周期で一定額ずつ受け取る |
所得の種類 | 退職所得 | 雑所得 |
税額の算出方法 | 退職所得単独で算出(分離課税) | ほかの所得と合算して算出(総合課税) |
確定申告の有無 | 基本的には不要 | 基本的には不要 |
退職金の受け取り方が一時金と年金のどちらであっても、基本的には確定申告の手続きは不要です。ただし、条件によっては確定申告を行ったほうが良いケースがあり、詳しくは「税金が引かれた金額が支給される」の箇所でご説明します。
次に、退職金にかかる税金ならではの特徴をご紹介します。
退職所得にかかる税金は優遇される
退職金は課税対象とされていますが、退職まで勤め上げたことに対する労いの意味もあり、ほかの所得に比べると税金が優遇されます。一時金として受け取る場合の優遇措置は下記の3つがあります。
<退職所得の税制優遇措置>
- 退職所得控除が適用できる
- 退職所得計算時に1/2課税が適用できる
- 分離課税により累進課税の影響を軽減できる
1の退職所得控除とは、退職金に対してかかる所得税や住民税を計算するときに退職金の収入額から差し引ける金額のことです。控除額は勤続年数に比例して増加します。また、2の退職所得計算時の1/2課税とは、簡単に言うと課税所得が半分になるという制度です。
最後に、3の課税方式が分離課税になる優遇措置とは、ほかの収入と合算されず退職所得単独の金額に対して所得税率が決まるため、所得額が多くなるにしたがって税率がアップする総合課税よりも累進課税の影響を受けにくくなることです。
これらの優遇措置によって、退職金はほかの所得に比べて納税額が少なく抑えられます。ただし、優遇措置を受けるためには、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出しなければなりません。
一方、年金受け取りの場合は所得の扱いが雑所得になり、退職所得控除や1/2課税の優遇措置は受けられませんが、その代りに公的年金等控除が適用されます。
それぞれの受け取り方での具体的な計算方法は、次章以降で詳しく解説していきます。
税金が引かれた金額が支給される
退職金を受け取るときは、所得税と住民税が差し引かれた後の金額が支給されます。自分で納税の手続きをする必要はなく、会社で所得税は源泉徴収を、住民税は特別徴収を実施してくれます。これは、一時金で受け取る場合も、年金として受け取る場合も同様です。したがって、自分で確定申告をする必要もありません。
ただし、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない人は確定申告をしないと損をする可能性があります。これは、申告書を提出しないと退職金に退職所得控除が適用されず、差し引かれる所得税額が多くなるためです。
この場合の救済策として確定申告を行う方法があり、申告をすることで源泉所得税として払い過ぎた金額(退職所得控除適用後の課税額との差額)を還付してもらうことができます。
退職金を一時金で受け取る場合の税金はいくらかかる?
勤続5年で250万円の退職金が支給される場合と勤続37年で2,000万円の退職金が支給される場合では、後者のほうが一見税金が多くなりそうですが、実際は少なくなります。ここでは、退職金を一時金で受け取る場合の具体的な税金の計算方法を解説したうえで、勤続5年と37年の場合の税額シミュレーションをご紹介します。
退職金にかかる税金の計算手順
退職金にかかる所得税と住民税は以下の計算式で算出できます。ただし、計算するうえで必要な金額が複数あるため、ここでは3つの手順に分けて説明します。
- <退職金にかかる税金の計算式>
- 退職金にかかる税金
=(退職金の収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2 × 税率 - 控除額
= 退職所得 × 税率 - 控除額
※復興特別税は考慮していません
- <退職金にかかる税金の計算手順>
- 【手順1】退職所得控除額を計算する
【手順2】退職所得を計算する(下線部分)
【手順3】退職所得に応じた税率で税額を計算する
【手順1】退職所得控除額を計算する
まずは退職所得を算出するために、退職所得控除額の計算から行います。
退職金を一時金として受け取る場合、勤続年数20年を境にして退職所得控除の計算方法が異なります。計算方法は以下のとおりです。なお、勤続年数は切り上げとされ、9年1ヶ月の場合は10年として計算されます。
- <手順1:退職所得控除額の計算>
- ・勤続20年以内
所得控除額 = 40万円 × 勤続年数
※最低80万円
・勤続20年超
所得控除額 = 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
- 出典:国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|3 退職所得控除額の計算方法を元に作成
勤続年数が20年を超えると、年数に対して掛けられる金額が40万円から70万円に増えるため、20年以下よりも1年あたりの控除額が増え、優遇のレベルがさらに上がります。
ちなみに、勤続年数が1年の場合は、計算式では退職所得控除額が40万円になりますが、80万円未満の場合は一律80万円に揃えられるというルールがあります。つまり、退職所得控除は最低でも80万円は適用されると言えます。なお、退職の原因が障害を持ったことである場合は、上記で計算した退職所得控除額に100万円が加算されます。
【手順2】退職所得を計算する
手順1で退職所得控除額が求められたら、次は手順2の退職所得を計算します。計算方法は以下のとおりです。なお、1,000円未満の端数が出たときは切り捨てます。
- <手順2:退職所得の計算>
- 退職所得 =(退職金の収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2
- 出典:国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|3 退職所得控除額の計算方法を元に作成
【手順3】退職所得に応じた税率で税額を計算する
上記の計算によって退職所得が求められたら、手順3で所得税、住民税の計算式に所定の金額を当てはめて算出します。
- <手順3:所得税と住民税の計算>
- ●所得税の計算式
(退職所得 × 所得金額に応じた税率)- 所得金額に応じた控除額
●住民税の計算式
退職所得 × 10%
所得税を計算するときの所得税率は、手順2で算出した退職所得額に応じて決定され、以下はその対応表です。
【所得税ごとの税率と控除額の早見表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円~330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円~900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円~1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円~4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
なお住民税は、前年の所得に対して課税額が決まる「所得割」と、所得に関わらず一律に一定額が課税される「均等割」に分けられます。退職金にかかる住民税は所得割のみです。
勤続5年と勤続37年の退職金にかかる所得税と住民税(計算例)
それでは、勤続5年で250万円の退職金が支給される場合と、勤続37年で2,000万円の退職金が支給される場合の税額を、上でご説明した手順1~3に沿って、実際に計算していきます。
勤続5年で退職した場合 | 勤続37年で退職した場合 | |
---|---|---|
条件 | 勤続年数:5年 退職金額:250万円 受取方法:一時金として一括受取 |
勤続年数:37年 退職金額:2,000万円 受取方法:一時金として一括受取 |
手順1 退職所得控除額の計算 |
勤続年数が20年以下の計算式: 40万円×勤続年数 40×5=200(万円) |
勤続年数が20年超の計算式: 800万円+70万円×(勤続年数-20年) 800+70×(37-20)=1,990(万円) |
手順2 退職所得の計算 |
退職所得の計算式:(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2 | |
(250-200)×1/2=25(万円) | (2,000-1,990)×1/2=5(万円) | |
手順3 所得税・住民税の計算 |
●所得税の計算 所得税の計算式:(退職所得×所得金額に応じた税率)-所得金額に応じた控除額 |
|
退職所得が25万円の場合【所得税ごとの税率と控除額の早見表】より税率は5%で、控除額は0円 ↓ 25×5%=1万2,500(円) ↓ 退職金から源泉徴収される所得税は1万2,500円です。 |
退職所得が5万円の場合【所得税ごとの税率と控除額の早見表】より税率は5%で、控除額は0円 ↓ 5×5%=2,500(円) ↓ 退職金から源泉徴収される所得税は2,500円です。 |
|
●住民税(所得割)の計算 住民税の計算式:退職所得×10% |
||
25×10%=2万5,000円(円) ↓ 退職金から特別徴収される住民税は2万5,000円です。 |
5×10%=5,000円(円) ↓ 退職金から特別徴収される住民税は5,000円です。 |
以上のように、勤続年数が5年で退職金が250万円の場合、所得税は1万2,500円、住民税は2万5,000円となり、勤続年数が37年で退職金が2,000万円の場合、所得税は2,500円、住民税は5,000円となりました。計算の結果、後者のほうが税金は安くなっていることが分かります。
退職金を年金で受け取る場合の税金はいくらかかる?
退職金を年金形式で受け取る場合は雑所得の扱いになり、所得税や住民税の計算方法はこれまでにご紹介した一時金受け取りとは異なります。ここでは、年金受け取りの場合の所得控除のルールや税額シミュレーションをご紹介します。
退職金は年金受け取りでも所得控除が適用される
退職金を年金受け取りにした場合は、所得控除の一つである公的年金等控除が適用されます。公的年金等控除とは、年金の収入額から一定の金額が控除されるもので、その控除額は年齢と年金の年間収入額に応じて決定されます。
なお、年金形式で受け取った退職金のほかに公的年金の収入がある場合は、それぞれで公的年金等控除が適用されるのではなく、退職金と公的年金の合算額を元に計算されますので注意が必要です。
以下は、公的年金などの雑所得額を算出するための計算式と速算表(年金関連の雑所得以外の所得が1,000万円以下の場合)です。
- <公的年金等に係る雑所得の計算>
- 公的年金等に係る雑所得の金額 = (a) × (b) - (c) = 公的年金等の収入金額の合計額 × 割合 - 控除額
公的年金等に係る雑所得以外の所得の合計所得金額が1,000万円以下 | |||
---|---|---|---|
年金を受け取る人の年齢 | (a)公的年金等の 収入金額の合計額 |
(b)割合 | (c)控除額 |
65歳未満 | ※公的年金等の収入金額の合計額が60万円までの場合は、所得金額はゼロとなります。 | ||
60万円を超え130万円未満 | 100% | 600,000円 | |
130万円~410万円未満 | 75% | 275,000円 | |
410万円~770万円未満 | 85% | 685,000円 | |
770万円~1,000万円未満 | 95% | 1,455,000円 | |
1,000万円以上 | 100% | 1,955,000円 | |
65歳以上 | ※公的年金等の収入金額の合計額が110万円までの場合は、所得金額はゼロとなります。 | ||
110万円を超え330万円未満 | 100% | 1,100,000円 | |
330万円~410万円未満 | 75% | 275,000円 | |
410万円~770万円未満 | 85% | 685,000円 | |
770万円~1,000万円未満 | 95% | 1,455,000円 | |
1,000万円以上 | 100% | 1,955,000円 |
なお、退職金を一時金で受け取った場合の退職所得は、ほかの所得と切り離されて単独で課税される分離課税の対象ですが、年金で受け取った場合の雑所得では、ほかの所得と合算して課税される総合課税が適用されます。
総合課税では最終的に一律で適用される48万円(所得税/合計所得金額が2,400万円以下の場合)の基礎控除がありますので、上記で算出された雑所得の金額が48万円以下であれば税金は発生しないことになります。
そして、所得が年金収入のみで雑所得の金額が48万円を超えた場合、年金から所得税が源泉徴収されます。医療費控除などの各種控除が適用できる場合は雑所得が少なくなるため、確定申告をすることで払い過ぎた税金を取り戻すことができます。
年金受け取りの初年度にかかる所得税と住民税
退職金を年金形式で受け取る場合の所得税と住民税(所得割)の金額を、以下の条件でシミュレーションしてみました。
- <条件>
-
- 退職金が2,000万円、20年分割で年金として61歳から受け取る
- 受け取り初年度は再雇用制度を利用して在職中
- 年間給与収入は400万円
- 1年間の退職年金受け取り額は100万円(2,000万÷20年)
この条件では、収入は会社からの給与と年金(退職金)で、所得は給与所得と雑所得に分けられます。所得の種類が2つあり、計算が複雑になるため、ここでは以下の4つの手順に分けてご紹介します。
<所得税・住民税の計算手順>
- 給与所得の課税対象額の計算
- 雑所得の課税対象額の計算
- 所得から控除される金額の計算
- 所得全体にかかる所得税・住民税の計算
<退職年金にかかる所得税・住民税の計算シミュレーション>
1.給与所得の課税対象額の計算
●所得税・住民税における課税対象額
課税対象額=年収-給与所得控除
※年収400万円の場合の給与所得控除=年収×20%+44万=124万円
400万-124万=276万(円)
2.雑所得の課税対象額の計算
●所得税・住民税における課税対象額
課税対象額=年金額-公的年金等控除額
※公的年金等控除額=60万円
100万-60万=40万(円)
3.所得から控除される金額の計算
●所得税における控除額
控除額=社会保険控除+基礎控除+所得金額調整控除
※社会保険料控除(年収の14.22%で計算)=年収×14.22%=56万8,800円
※基礎控除=48万円
※所得金額調整控除=10万円
*年金所得と給与所得があり、合計した所得額が10万円を超える場合、給与所得控除に加算されます。このケースでは10万円となります。
56万8,800+48万+10万=114万8,800(円)
●住民税における控除額
控除額=社会保険料控除+基礎控除
※社会保険料控除は所得税と同じ
※基礎控除=43万円
56万8,800+43万=99万8,800(円)
4.所得全体にかかる所得税・住民税の計算
●所得税の計算式
所得税=(給与所得の課税対象額+雑所得の課税対象額-所得控除の合計額控除額)×所得税率-控除額
※課税される所得金額が「195万円~330万円未満」の場合、【所得税ごとの税率と控除額の早見表】より所得税率は10%、控除額は9万7,500円
(276万+40万-114万8,800)×10%-9万7,500=10万3,600(円)
*100円未満は切り捨て
●住民税(所得割)の計算式
住民税=(給与所得の課税対象額+雑所得の課税対象額-所得控除の合計額)×税率-調整控除額
※調整控除額=2,500円
*所得税と住民税の人的控除額の差額による負担増調整のため、住民税の所得割額から一定の金額が控除されます。このケースでは2,500円となります。
(276万+40万-99万8,800)×10%-2,500=21万3,600(円)
*100円未満は切り捨て
※年金運用に伴う利益は考慮していません
※他の所得控除は無いものとして計算
※令和2年分(住民税は令和3年分)以降の税制で計算
※住民税の所得割は一律10%で計算
※復興特別税は考慮していません
以上のように、退職後、年間給与として400万円を受け取りつつ、退職金年金として100万円を受け取る場合、所得税は10万3,600円、住民税は21万3,600円となります。
まとめ
退職金は課税対象となる所得ですが、これまでの勤労に対する労いという意味合いもあって税制優遇の措置がとられており、場合によってはほとんど課税されないケースがあります。税額を決める要素としては、退職金の受け取り方や退職金の金額、勤続年数などが挙げられます。
退職金はライフステージや貯蓄の状況によって、使い方はさまざま。転職の場合は次の仕事までの生活費や住宅・教育費に、定年退職に伴う退職金であれば老後資金に、というように有効に使えると良いでしょう。しかし、使い道を考える前に、まずはいくら手元に残るのかシミュレーションをしてみることが重要です。税額の計算や退職金の使い方にお悩みの場合は、ファイナンシャル・プランナー(FP)に相談してみましょう。下記よりお気軽にお問い合わせください。
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